囚われのシンデレラ【完結】


 この日も日付けが変わる前に、車で家まで送り届けてくれた。どんなに遅くとも、必ず12時までに私を家に帰してくれる。それは、毎日早朝から練習する私が、寝不足にならないようにという、西園寺さんの配慮だ。

 車が停車すると、西園寺さんが私の方に顔を向けた。

「斎藤って、覚えているか?」
「斎藤さん……ああ、はい、覚えています。西園寺さんのお友達ですよね」

西園寺さんが一番信頼している人だと言っていた。

「あいつが、あずさに会わせろとうるさくて。ここ2ヶ月くらいあしらっていたんだけど、さすがにもう逃げきれない。一緒に食事でもと言っているけど、いい?」

ホテルでアルバイトをしていた時、斎藤さんが言っていたことを思い出す。でも、すぐに返事をした。

「西園寺さんの大切なお友達ですもんね。もちろん、喜んで」
「そう言ってくれて、ホッとした。遥人(はると)とは付き合いが長いせいで、隠し事が出来ない。いずれ、あいつにはちゃんとあずさのことを紹介したいと思っていた」

西園寺さんの目が真剣なものになる。

「俺にとって遥人は、友人としてだけでなく、この先ずっと仕事上支えてくれるパートナーになる。だからこそ、あずさとのことは、一番に理解してほしい人間なんだ」

その言葉は、私のことを大切に想ってくれている何よりの証だと思えた。だから、会うのが怖いだなんて思うのは間違っている。

「分かりました」

私も、西園寺さんの隣にいる人間として、ちゃんと斎藤さんと向き合いたい。私にとって西園寺さんは、何も代えがたい大切な存在になっていた。

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