死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
リアンの瞳の色が濃くなる。信じられないとでも言いたげに見開かれたそれは、大きく揺れ動いていた。
「私は、運命とやらに抗いたいの。利用されて死にたくなどない」
運命─それはフェルナンドが一方的に告げてきたものだ。彼の元に嫁ぎ、アルメリアを産んですぐに死ぬというもの。フェルナンドに騙され、利用されて死んだ、時を戻る前の自分だ。
そうなりたくがないために、リアンを夫にする。それはもう二度とアルメリアに逢えないことを意味しているが、時を戻すという奇跡をくれた未来の我が子にクローディアができることは、しなければならないことは──リアンの夢の先にある景色と同じなのだ。
それをリアンに明かすことは、この先きっとないだろうけれど。
「…運命って、あいつが言ってたこと?」
フェルナンドが言っていたことを覚えていたのか、リアンは確かめるように問いかけてくる。
「ええ、そうね。だから、貴方には私の夫になってほしい」
大陸の半分を征服した、帝国の皇女の夫君。誰もが首を垂れるその地位は、はっきり言ってリアンには魅力的でしかない。子供の暮らしを豊かに──未来への宝を育むことなど、すぐに叶えることができるだろう。きっと。
「…つまり俺は、ディアの形だけの夫になる代わりに、アウストリア皇家の婿養子になるってこと?」
クローディアは頷いた。皇女が他国の王族に嫁ぐことはよくあることだが、その逆はあまり例がない。
だからリアンがすぐに返事を出すのは難しいかもしれないが、案の定リアンは二つ返事で頷いた。