死に戻り皇女は禁色の王子と夢をみる
エレノスが多忙なのは、今に始まったことではない。妃も世継ぎの子もいない皇帝の弟というのは、皇太子同然の立場であり、ローレンスのように公務と趣味を両立できるような時間的余裕はなかった。
だというのに、エレノスは必ず家族との時間を作るようにしている。そんな兄のことが、クローディアは大好きだ。
「ヴァレリアン殿下は、今日はどちらに?」
「リアンは教会に行っているわ。子供たちに会いに」
子供と遊ぶのが上手だと言って、クローディアは笑う。
いつしか自分の手を離れ、自分でない誰かの手を取って生きていくことは分かっていた。だが、いざこうして大人の女性になった妹を目の前にすると、喜びよりも寂しさの方が勝ったのは、まだ妹離れが出来ていないからなのだろうか。
エレノスは窓の向こうへと目を逸らし、薄らと唇を開いた。
「…そうか。立派な方だ」
空に雲が広がり、エレノスの横顔に影が落ちる。微かに仄暗くなった中で、より一層エレノスの顔色が悪く見えたクローディアは、熱でもあるのではないかと兄へ手を伸ばした。
だが、その手がエレノスに触れることは叶わなかった。
「──お兄様っ!!」
エレノスの体がぐらりと傾いたのと、クローディアが叫んだのは同時だった。
弾かれたようにエレノスの傍に駆け寄ったクローディアは、今まで出したこともないような大声で人を呼んだ。
「早く医者を呼んで頂戴っ…! お兄様が、お兄様がっ…」
クローディアはぽろぽろと涙をこぼしながら、エレノスの体を抱きしめていた。
きっと、ずっと働き詰めだったのだろう。休む間もなく、無理をしていたのだろう。だというのに、クローディアと会うために時間を作ってくれたのだ。エレノスは昔からそういう人だった。
「──皇女様っ!!」
別室で待機していたアンナが、血相を変えて飛び込んできた。同時にエレノスの側近である青年も駆けつけ、エレノスを寝室に運んで医師を呼ぶよう配下に命じると、アンナにクローディアを休ませるよう指示し出て行った。
固く目を閉ざしたエレノスが運ばれていくのを、クローディアは泣きながら見つめていた。