一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
手首から肘に向かって指を這わせられると、息だけじゃなくて小さく声も漏れた。
触れるか触れないか、紙一重の差で指先は這う。

腕の内側がこんなに敏感なんて知らなかった。
クロエさんとこういう事をする度に、今まで知らなかった自分の身体の事を知る。

ゆっくりと焦らす様に這わされるのが、もどかしい。

もどかしくて身を(よじ)る度に、自分の手首が拘束されているという事を実感する。
小さく息をもらすと、クロエさんは執拗に指先を這わせた。

もどかしさは募っていくだけで、どう扱ったら良いのかわからない。

二の腕に触れられた瞬間、思わず腰が浮いて甘い声が出た。

「今日も何も言ってくれないね。
自分がして欲しいことも言えないの?」

「…もう、無理………」

「答えになってない」

そう言って首筋に口づけた。

首や鎖骨に舌を這わされたり、唇を落とされる度に、自分の中で何かが高ぶっていく。

息遣いも声も、もう我慢しようとか抑えようとか考えるのが煩わしい。

「一昨日、ヒメと会ったんだよね?」

どうして今、姫野さんの話?
理由もわからず、どうにか首を縦に振った。

「首筋に跡、残ってた。
ごめんね、ヒメに見えたかも」

言葉とは逆の表情を浮かべると、クロエさんは首筋に歯を立てた。

言っている事とやっている事が伴っていない。

どこまでこの人は、狡いんだろう。
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