一夜の過ちは一生の過ちだった 【完】
翌朝、目を覚ますとクロエさんはもう仕事に出ていた。
ちぃちゃんは誇らしげに、赤いリボンを咥えて駆け寄ってくる。
昨夜の事を思い出し、すぐさまリボンに手を伸ばす。
ちぃちゃんはなかなか放さず、おもちゃで気を引くとようやく放してくれた。
―――もう一回してください。
自分があんな事を言ってしまうなんて思わなかった。
クロエさんは人をおかしくさせる。
身体の上を滑る指先や、這う舌の感触は、まだ身体中に残ってる。
瞼を閉じれば柔らかな唇を思い出す。
だけど、あれは自分に向けられたものじゃない。
名前を口にしない時だって、クロエさんはきっとカイトさんを想っている。
全部、全部、カイトさんのもの。
見た事も、会った事もないカイトさん。
あんな風にクロエさんに触れられていた人は、どんな人なんだろう。
……そう思ったけれど、クロエさんはカイトさんに触れた事はないのかもしれない。
―――アオイにとっての、あの人と同じ。
クロエさんはそう言った。
俺にとっての茉莉香。
それはつまり、想いを告げられず、触れる事も出来ない相手を意味するんじゃないのか……。
詮索しちゃいけないとわかっていても、やっぱり考えてしまう。
自分とクロエさんの関係は、もう折り返し地点も過ぎているのに。