御曹司の溺愛から逃げられません
「こちらへどうぞ」

試着室へと促されると私は渋々着替え始める。
いざ試着してみると少し甘めのテイストだが、それがまた私の心をくすぐる。仕事にはもちろんみんなの反応が怖くて着ていけないが、プライベートで是非着たいと思った。
鏡を見てから着替えようかと思っているとカーテンの外から声がかかった。

「どうだ? 着れたか?」

「は、はい」

「ならカーテン開けてもいいか?」

「え?!」

彼はワンピースを着た姿を見せろと言ってる??
困惑する私に更に煽るような声をかける。

「おーい。早く見たいから開けるぞ。いいのか?」

私は慌てて、開けられる前に自分からカーテンを開けた。
すると彼は一瞬固まったように見えたが、すぐにいつもの顔に戻った。

「似合うよ。凄くいい」

「本当ですね。彼女さんによく似合いますね」

ふたりに褒められると少し恥ずかしくなる。
顔が火照ってきてしまうと、瑛太さんは笑いながら店員に声をかけた。

「彼女にとても似合うので貰っていきます」

そう言うと、着替えを促されるようにカーテンが閉められた。

買うって言っちゃってたよね。
慌てて値札を見ると7800円だった。買えない値段じゃないけど、日頃から節約している私には即決できない値段だ。
少し考えたいといわなきゃ、と慌てて試着室から出ると既にショッパーが彼の肩にかけられていた。

「は、払います!」

腹を決め、すぐに声をかけるが彼は私の頭をポンとして「俺が買いたいと思ったからいいんだ」と言われた。

「素敵な彼氏さんで羨ましいです」

店員に勘違いされてしまい、訂正しようとするが彼を見ると首を振っていた。

「俺のわがままでこれを着てほしいと思ったんだから遠慮しなくていい」

私に笑いかける姿は今まで見たこともないくらい甘い表情で、今までの人生でこれほど私の鼓動が速くなったことはない。この表情を見るだけで胸が苦しくなる。

彼に背中を添えられ、私たちはお店を後にした。
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