御曹司の溺愛から逃げられません
「あ、ここです。着きました」

先ほどの可愛らしいお店とは少しテイストが違い、洗練された黒いシックな建物だった。
私たちが店内に入ると中には多くの人で溢れていた。
私は目当てのクッキーやフロランタン、マドレーヌをカゴに入れた。瑛太さんにおすすめを聞かれ彼の分も同じように私のカゴへ入れた。
お会計に進むと彼は私の分までまとめて払おうとしてしまうので慌てて私が払った。
先ほどのお店でモンブランをご馳走になってしまったお礼がしたかったのだ。

「はい、これは瑛太さんの分です」

「すまない。ありがとう」

「いえ。先ほどのお礼です!」

私が小さな紙袋を渡すと小さく笑って持っていたワンショルダーのバッグへとしまった。

「この後はパン屋さんにいきたいと思っていますが2つ先の駅なんです。いいですか?」

伺うように私が尋ねると「もちろん」と返事が返ってきた。
並んで駅へと引き返し、私たちは電車で移動をするが会話に困ることなく、なんだかとても自然に話せるようになっていた。

「柴山は甘いものだけが好きなのか?」

「食べること全般が好きですよ。おひとり様でどこでも行けます」

すると瑛太さんは笑っていた。

「たくましいな。まぁ俺もそうだが」

「まさか。瑛太さんがおひとり様だなんてことはないでしょう」

もちろん女の人と一緒でしょう? と言いたいところだが最後までは言えなかった。けれどそれを察した彼は笑いながら否定してきた。

「そのまさかだよ。だからこの歳まで独身だ。気になる子はいてもこの歳になるとなかなか動けなくてな」

「瑛太さんに誘われたら断る人なんていないですよ。自信を持ってください」

私はつい力が入り、彼の前で手をグーにして応援するようなポーズをとっていた。でも私のような人に応援されても嬉しくはないだろう。

「あ、ごめんなさい。なんだか上から言ってしまいました。私なんかが自信を持って、なんておこがましいですよね」

慌てて私は作り笑いを浮かべた。
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