御曹司の溺愛から逃げられません
そうこうしているうちに社内メールで社長交代のお知らせが来た。
現社長は会長職に就き、新たに息子さんが社長になるようだ。
メールには西園寺の長男で西園寺瑛太と書かれていた。
私が着任するときには世代交代となるらしく、部長からも転換期で忙しくなるだろうと声をかけられた。
私にできることなんてあるのだろうかと不安になるが、もう決まった人事は覆せない。
引き継ぎをするが、米田さん達からはいい顔をされず、居心地が悪い。でも後少しの我慢だと私は歯を食いしばり笑顔を貼り付けた。

「なんで柴山さんなのかね。秘書って美人で頭も良くて、スタイルも良くて完璧な人間じゃない? 柴山さんとは正反対」

キャッキャと数人の社員が給湯室で話している声が廊下まで聞こえてきた。

「本当だよね。でも色目を使って秘書になれるキャラじゃないし、誰かと間違えられてるんじゃない? もしそうなら即返品だよ」

聞くに耐えず私はそっと給湯室から離れた。
すると後を新井くんが追いかけてきた。

「大丈夫か?」

彼は私と同期入社で去年から同じ支店で働き始めた。さりげなく私を気遣ってくれるありがたい同期だ。

「うん。でも正直な感想だよね。私自身だって信じられないんだもん。私が秘書なんて似合わないよね」

少し自虐気味になりながら話すと、彼は私を屋上へと連れて行く。

「あのな、俺はすごく合ってると思ってるよ。お前の仕事は地味だけどなくてはならない縁の下の力持ちだろ。お前はみんながやらなきゃと思っていることを先回りしてやってくれるからみんな助かってるんだ。それだけ周りをよく見てるし、何が必要か判断できるってことだ」

「ありがとう……」

多少なりとも合っていると言ってもらえて折れそうだった心が少し癒された。
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