御曹司の溺愛から逃げられません
いよいよ今の職場での最終日。
送別会を開いてくれると言われるが気が重い。
相変わらず米田さんやその周りからはよく思われていないのをヒシヒシと感じている。

「とうとう今日で最後か。寂しくなるな」

新井くんに肩を叩かれ、話しかけられていると山﨑さんたちも近寄ってきて私の周りを囲まれた。

「本当だよな。柴山さんがいなくなると困るよ。資料を探すのも作るのも頼ってばかりだったからな。こんなに気の利く子はいないよ」

うん、うん、と頷かれると私は苦笑いを浮かべた。特別なことは何もしていないのにそんなふうに思ってもらえているなんて嬉しい。
寂しいと思ってくれる人がいてくれると思うとなんだか胸の奥が温かくなった。

「秘書が嫌になったらまた戻ってこいよ。いつでも歓迎だからな」

「ありがとうございます。でも戻りたいからと言っても戻してもらえないんじゃ……」

私はクスクスと笑いながら話すとみんな腕を組んで、うーん、と悩むような仕草をしてくれた。

「よし、大きな失敗をしてこい。そしたら戻してもらえるかもしれないな」

「そんなことしたらクビじゃないですか?」

うーん、とまたみんなで悩み出す姿を見て、ここで働けて良かったと思った。

店を閉めるとみんなで近くの居酒屋に向かった。

「乾杯」

部長の音頭でグラスを上げた。
周囲の人のグラスにカチンと重ね、口々に「お疲れ様」と言われ、私は「ありがとうございます」と繰り返した。

新入社員の頃からずっといるこの支店には本当にお世話になった。多少の入れ替わりがあるが20人余りの規模でアットホームな雰囲気も好きだった。
いざここから離れるとなると心細く、寂しくなるがみんなに励まされ送り出してもらった。
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