御曹司の溺愛から逃げられません
「もしもし」

『おはよう。起きれたか?』

朝からバリトンボイスが鼓膜を刺激する。

「はい」

『今から少し話せないか?』

まだ髪の毛はボサボサ、部屋着のままでとても見せられたようなものでない。
部屋だってこの1週間何もしていない。こんな部屋に招き入れることはできない。
何度となく私の部屋に彼を呼んだが、毎回片付けをした綺麗な部屋を見せていた。突然の訪問で、しかも1週間の家事が溜まったままで見せられるわけがない。

「ごめんなさい」

『支度ができるまで待つよ』

「でも……」

『どうしても今日話がしたいんだ。だからどれだけでも待つつもりだ』

忙しい彼の時間を奪っていいのだろうか。
今週一緒に仕事をしていて彼がいかに多忙なのかを目の当たりにした。
そんな彼が時間を割いてここにいる。
秘書課に勤めていると彼の時間は有益なものであるとよく分かった。そのため無駄な時間を過ごさせるわけにはいかない。

「すぐに支度しますからお待ちください」

私は仕事の時と同じように伝えると慌てて電話を切った。
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