御曹司の溺愛から逃げられません
「香澄、沸いたよ」

「え?」

声をかけられると同時に私は抱き上げられ、寝室を後にした。
廊下を抜け、連れて行かれたのはバスルームだった。
私の家とは大違いで外の景色が一望できる大きな窓があり、バスタブは大理石だった。
椅子に座らされると髪の毛も身体も自分で洗わせてくれず、彼が楽しそうに洗い始めてしまう。

「瑛太さん。自分でやります」

「ダメだ。昨日は随分と無理をさせてしまったから俺がやる」

その言葉に昨夜のことが思い出され、また顔が熱くなる。
彼に全身くまなく洗われるとバスタブの中に入った。
バスソルトを入れてくれ、爽やかな香りが漂よう。
彼自身も手早く洗うと私の背中側へ入り込んできた。
背中から彼の肌を感じる。
ふっと手が前に回ってきて膝の上に乗せられ、抱きしめられた。
背中に唇を当てられ、飛び上がった。

ひゃん…

変な声が出てしまうと彼はクスクス笑いながらますます意地悪をし始めてきた。

「もう。今日の瑛太さんは意地悪です」

私は不貞腐れるようにそう告げると、背中からごめんという声と共にぎゅっと抱きしめられた。

「香澄が腕の中にいると思うだけで嬉しくて、子供のように少し意地悪したくなる。クソガキだな。でもこの幸せは夢じゃないのか確認したくもなる」

彼に顔を横向けられるとすぐに唇が奪われた。

「この数ヶ月、香澄に触れられないもどかしさが暴走してるんだな。俺のことを社長と呼び距離を取られ、正直頭を抱えたよ。そんな時立川からアドバイスをされたんだ」
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