御曹司の溺愛から逃げられません
「立川さん?」

「ああ。俺がもがいてるのを見て哀れに思ったんだろう。パーティーに同伴を勧められた」

え?
立川さんは何も知らなそうな反応だったのに、そもそも彼女が勧めた話なの?

「立川は香澄のことを高く評価してるぞ。でも俺に対して引け目を感じているのもわかっていてアドバイスをくれたんだ。女性としての自信も与えてやるように、とな」

「自信?」

「ああ。支店にいる時も目立たないオーソドックスな服装をしていただろう? 秘書課でもそうだ。プライベートは可愛い格好をするのに何故かみんなに見せる自信がない。仕事もそうだ。気配りも仕事の立ち回りも完璧にこなせているのに何故か前に出ず一歩も二歩も下がっているだろ」

確かに目立たないようにしていた。米田さんのような女性に影口や直接言われることに反論もできないし、立ち向かう勇気もない。だから無意識に自分を消していた。それが今も残っているのだと思う。

「香澄は可愛いよ。一緒に働いていて、香澄に気のある男が何人もいたんだぞ。アプローチに気が付かないでいてくれて良かったよ。その鈍さには感謝すらしている。なかなか落とせないって言われてたんだぞ」

「まさか」

「ほら、鈍い。地味で目立たないつもりだっただろうけど、香澄から滲み出るものをみんなわかっていたよ。むしろ自分の手で変えたいと男心をくすぐってさえいたぞ」

瑛太さんの言葉は信じられなかった。
私が男性からの誘いを受けるなんて滅多になかった。時々こっそりおやつを貰ったりしていたから餌付けされていた、の間違いなんじゃないのかな。

「でも俺は知ることができた。プライベートの香澄がどんなに可愛いのか見つけてしまった。でも更に俺の手で可愛くなる楽しさも気がついてしまったんだ」

「え?」

「初めてのデートの時にワンピースをプレゼントしただろう? 試着室で見て俺はドキンと鼓動が早まるのを感じた」

あ、あの時の服。
試着室から出るとすでにお会計が済まされていたんだった。あれから半年、なんだか懐かしく思えた。

「今回のワンピースも俺が選んだ。念のためもう1着も購入していたがやっぱり香澄にはこの色だと思っていたんだ。アクセサリーも靴も俺が事前に選んだ。立川には呆れられたが、そもそも彼女が同伴を提案してくれたから感謝してるよ」

「昨日のワンピースも瑛太さんが選んだんですか? てっきり店員さんがコーディネートしてくれたものだとばかり思っていました」

「実は濃いめのブルーも用意していたんだ。次はそのドレスも着て欲しい」

ちゅっと頬にキスを落としてきた。

「他にも用意していたんですか?」

「あぁ。見ていたら決めかねてな。明日にでも一式店からうちに配送されてくるはずだ」

一式って……。
瑛太さんのニヤリとした顔が物語っていることはわかった。きっと靴もアクセサリーなどの小物もなのだろう。

「さ、そろそろ出るか?」

私を抱き上げると脱衣所に連れて行かれ、バスローブを着せられた。
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