目の前の幸せから逃げないで
7

新年度が 始まって 

光毅は ほとんど 大学に 行っていなかった。


「学校、大丈夫なの?」

「うん。ゼミだけだから。」

「そう。ならいいけど。ちゃんと 卒業できる?」


光毅は 全く 就活を していないようで。

それが 気がかりなのに 聞けない私。


「もちろん。俺、ちゃんと 単位取れているから。」

光毅は 屈託なく笑った。


「あっ、そうだ。鈴香が 動画送ってきたの。見る?」

「うん、見たい。」

スマホを開いて 光毅に差し出す。


『紗良ちゃんでーす。大きくなりました。』

と鈴香の声がして 赤ちゃんの アップが映る。


「可愛いね。青木さんに 似ているのかな。」

「うーん。どっちかっていうと パパ似かな。」

「あっ。ウチの服、着ているね。」

「当然よ。」

最初は 笑い合って 動画を見ていた光毅。

「由紀乃さんも、ママになりたい?」

急に 真面目な顔で 私に聞く。

「どうかな。今は 仕事が楽しいから。まだいいかな。」

「ごめん。俺じゃ、頼りない?」


時々 感じる 光毅の引け目。

そんな風に 思わせてしまうことが 私は辛くて。

引け目を 感じているのは 私の方なのに。


「そんなことないよ。でも 赤ちゃんいたら みつきと イチャイチャできないからね。」

本音で話すことが 怖くて 私は 茶化してしまう。

俯いた光毅は 迷子の子犬みたいな 瞳だった。








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