目の前の幸せから逃げないで

鈴香とは 時々 電話で 話すけど。

私は 光毅とのことを 鈴香に 話していなかった。


『紗良ちゃん、随分 大きくなったでしょう。育児 少しは 楽になった?』

『まあ、生まれたばかりに 比べれば。夜中 起きなくなったし。でも私、ホント 育児 舐めていたわ。』

『フフフ。何でも 器用にこなす鈴香が。弱気じゃない。』

『仕事の方が ずっと 簡単よ。私 子供を産めば 誰でも 母親になれると 思っていたのよ。それなのに 母乳も よく出ないし。哺乳類失格だわ。』


『フフッ。仕事 したくなった?』

『そうね。SNOW BELL、好調じゃない?売上げ 伸びているし。ハタ君も 頑張っているのね。』

『おかげ様で。時々、リモートで 打合せしようよ。鈴香の意見、聞きたいことも あるし。』

『いいわよ。紗良が お昼寝の時なら 落ち着いて リモートできるから。』


鈴香が 私と光毅のことを 知ったら 何て言うだろう。

きっと 鈴香は 呆れる。

やっと 清原さんと 別れたのに。


今度は 12才も年下の 光毅と 付き合っているなんて。


『ハタ君、就職は 決まったの?』

『どうなんだろう。何も 言わないから。わからないわ。』

『聞かないの?』

『私から聞くのも なんかねぇ…でも 3月までは ウチで働けると思うの。だから 鈴香のペースで 復帰してくれれば いいよ。』

『ハタ君 いい子で 良かったね。』

『そうね。仕事熱心だし。ほんと、助かっているわ。』


私は、他人事のように 光毅を褒めたけど。

何となく 照れくさくて。


顔が見えない 電話で良かったと 思っていた。









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