目の前の幸せから逃げないで

事務所には 色々な人が 訪ねてくる。

銀行の人や、広告会社の人。

子供服問屋の人。


そういう人と 話すことも 私の仕事だった。


近くの銀行から 渉外担当者が来た日。

家に帰ってからの 光毅は 珍しく 不機嫌だった。


「みつき、今日は 大人しいね。体調悪い?」

気になって 私は 聞いてしまう。

「今日来た 銀行の人 由紀乃さんと お似合いだったね。」

「もしかして 光毅 妬いている?」

「別に。でも 由紀乃さんも 楽しそうに 話していたじゃない。」

「取引銀行だもの。愛想良くしておかないと。」

「本当に それだけ?」

「当たり前でしょう。フフッ。拗ねたみつき 可愛い。」

「子ども扱いするの 止めてよ。」

「そんな ヤキモチ妬くの、子供だもの。仕方ないでしょう。」


私は わざと 光毅の頭を 撫でてあげる。

「由紀乃さん。どこにも 行かないで。」


私を 抱き締めて言う光毅。

機嫌を直す 頃合いを 光毅は 心得ている。

「行かないわよ。ここ、私の家だもの。」

「もう。由紀乃さんの 意地悪。」










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