目の前の幸せから逃げないで

3年前。

私が 会社を辞めて 起業すると言った時、鈴香は

「由紀乃。それ、私も 一緒にやらせて。」

と言って、私を驚かせた。


「いいの?上手くいくかどうか、わかんないんだよ。」

私は言う。


「そんな事、別にいいよ。大丈夫。由紀乃だって、私が居た方が 心強いでしょう。」

「それはそうだけど。お給料も 払えるかどうか、わかんないよ。」

「いいって。最初から、たくさんお給料 貰うつもりなんてないから。貯金もあるし。いざとなったら 啓介に 養ってもらうから 大丈夫。」

「本当にいいの?」

「うん。今の会社、なんか 限界が見えてきちゃってさ。つまんないのよね。」

「つまんないって。私だって 遊びじゃ ないんだけど。」

「そんなこと わかっているわよ。」

そう言って 鈴香は笑った。


私と鈴香は 新卒で採用された会社の 同期だった。

過酷な 就活を 勝ち抜いて 入社した大手商社は

お給料は 良いし、福利厚生も 充実していて 働きやすい環境だった。


私と鈴香は、研修の時から 何となく 気が合っていた。


その後、私は営業課 鈴香は広報課と

全く 違う部署に 配属されたけど。

かえって それが良かったのか、ずっと仲良くしている。



私は、海外の 高級子供服を輸入して 

ネット販売する企業を 立ち上げようとしていた。


広報課で ずっとWebデザインの 仕事をしてきた 鈴香が一緒なら 心強いけど。

本当に 鈴香を 巻き込でしまっていいのか

私が 迷っているうちに 鈴香は さっさと 辞表を出していた。

『もう、やるしかない』

鈴香を 巻き込んだことで、私も 覚悟は固まっていた。






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