目の前の幸せから逃げないで

「はじめまして。代表の三島です。」

私が 名刺を差し出すと

スーツ姿の 大学生は 少し驚いた表情をした。


「葉田光毅です。よろしくお願いします。」

地味な雰囲気だけど 整った顔立ちの青年。


「ハタ君、パソコンは どの程度できる?」

「SEを目指していたので、一通りのプログラミングは できます。」

「目指していた?諦めてしまったの?」

「いえ…僕、コミュニケーションが 苦手で。SEには 致命的だって言われて。」

ボソボソとした話し方で 答える光毅。

人見知りなのか。

軽快な 明るさは ないけど。

私は 逆に 誠実さを感じた。


「うちは 少人数だから、気を使わないで 仕事できるんじゃないかな。」

「はい。」

光毅は 少し笑顔になって 頷いた。


「ハタ君、バイトの経験は ある?」

「コンビニとか ファミレスとか。大学に入ってから ずっと バイトは していました。」

「どうして ウチみたいな所で バイトしようと 思ったの。」


「今までのバイトは シフト制で。思ったように 働けないんです。授業が減ったから、もっとしっかり 働きたいと思って。」

「そうなの。ウチは、逆に 来れる日は 全部 来てもらいたいの。一応、土日休みだけど。急ぎの仕事があれば 出てもらうこともあるけど。」

「はい。大丈夫です。」


「いつから 来られる?」

「僕、採用して もらえるんですか?」

光毅は 驚いた顔で私を見た。


「もちろん。ハタ君さえ 良ければ、だけど。」

「お願いします。いつも、返事は 後日って、言われるから。」

「そんな、もったいぶるほどの 会社じゃないもの。」

「ありがとうございます。今、夏休みなので 明日からでも 大丈夫です。」

「そう。じゃ、明日から お願いね。あっ、スーツじゃなくて いいからね。普段着で。」

私は 自分の服装を 見ながら 光毅に言った。






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