目の前の幸せから逃げないで

「鈴香、すっかり ママになっているね。」

「由紀乃さんと 青木さんって ずっと 友達だったの?」

光毅に 聞かれて。

「そうよ。前の職場で 同期だったの。」

「へぇ。由紀乃さん 前って どんな仕事 していたの?」

「総合商社よ。私は営業部で、鈴香は 広報だったの。」

「なんていう会社?」

「N商事よ。」


私は 少し躊躇ってから 会社名を言った。

「えっ?すごい エリートじゃない。」

光毅は 驚いた顔で 私を見た。

「そんなこと ないわよ。」

「ううん。俺の大学からじゃ 一人も 就職できないよ。N商事なんて。」

「今は 大変なのよ。私が入ったのは すっと前だもの。」

「俺なんかじゃ 由紀乃さんと 全然  釣り合わないんだ。」

ボソッと言う 光毅。


「ううん。」

光毅が そんな風に 思うことが 嫌だから。

言いたくなかったのに。


だって 釣り合わないと 思っているのは 私なのに。

仕事に戻った私達は、もう その話題には 触れなかった。







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