スパダリの秘密〜私の恋人はどこか抜けている〜
 ただ立場的にも有紗のほうが帰りが早く料理も得意なので、必然的に料理担当になっている。慶汰も人並みにできるが、具材が切れてなかったり調味料を間違えたり、ちょっとした凡ミスをするのだ。特に卵なんて、九割型黄身が割れているくらいには不器用だ。

「……慶汰さんってどこか惜しいよね」
「だよなぁ。仕事だけは完璧なのに」
「自分で言う!?」
「だってその通りだろ」

 そう言われてしまえば、反論はできない。再び悔しい気持ちが込み上げてきて、有紗は唇を噛んだ。

「次は絶対私が社長賞獲る。慶汰さんに追いついて……ううん、追い越すんだから」
「ああ、楽しみにしてる。有紗なら大丈夫だよ」

 ライバル――というのはさすがにおこがましいが、上司でもある慶汰に言われると悔しくも嬉しくて口元が緩む。有紗は矛盾した気持ちを隠すようにうどんを頬張った。




 宣言通り慶汰に抱かれた翌朝。決まった時間に鳴り響いたアラームで有紗は目を覚ました。ベッドから抜け出したいのに、体にはしっかりと慶汰の腕が巻きついている。

「慶汰さん」
「……」
「慶太さーん、おはよう」
「……ん」

 慶汰の腕を力強く揺らせば、耳元でくぐもった声が吐息と共に漏れる。
 まだ寝ぼけているのか、巻きついた腕をさらに絡み付け、有紗は身動きがとれなくなった。

「起きて。遅刻しちゃう」
「あと五分……」
「ちょっ……!」

 首筋に顔を埋め、小さく音を立てながら口づけていく。
 起き抜けの温かな手は有紗の体をまさぐり、するりとパジャマの中へと侵入した。

「なに、して……っ」

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