Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜

7 囮

 早朝に誠吾の車で自宅に戻った芹香は、出勤前だった家族に出迎えられた。しかし事態を黙っていた父と兄は、申し訳なさそうに肩を落としていた。

 リビングに集まり、ソファに腰を下ろしてからも、二人は頭を抱えてため息をついたので、困った芹香はわざと明るく微笑んだ。

「ほら、私は何もなかったし」
「本当に無事で良かった……」
「ちゃんと明智さんが守ってくれたから大丈夫」
「それでも、きちんと芹香に伝えていたらこんなことにはなっていなかったかもしれない……」

 その重たい空気を打ち破るように、芹香は疑問に思っていたことを口にしてみた。

「明智さんから話は聞いて、今までのことは理解したつもりよ。だから副社長が犯人として疑われていることも知ってる。ただ気になるのが、前回は私の誘拐と重なるように叔父さんの投資の失敗が露見したけど、今回叔父さんが疑われているのには、何か理由があるの?」

 芹香が言い終わるのと同時に三人は顔を見合わせ、兄が静かに頷いた。

「実は少し前に、父さんに差出人不明のメールが届いたんだ。そこには太一がオンラインカジノで大きく負けて、多額のを背負ったと書かれていてね、それからすぐに芹香の机で盗聴器を見つけた」
「そのことがあって、そのメールの信憑性を含めてすぐに明智くんに相談したんだよ。その結果、事実であることがわかったんだ」

 父も真剣な表情で続ける。話を聞く限り、相当なスピード感を持ってこの事態に対処したことが伺えた。

「だから彼に芹香のボディーガードを頼んだよ」

 少し前なら、このセリフを聞いても信じなかっただろう。しかし昨夜の経験をすれは、事態は思っているよりも悪い方向に進んでいるのだとわかる。そしてそれはまだ途中で、終わっていないのだ。

「ちょっとよろしいでしょうか」

 誠吾が静かに会話の中へと入ってきたため、三人にの視線は誠吾へと向けられた。
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