Better late than never〜失った恋だけど、もう一度あなたに恋してもいいですか?〜
 その時だった。

「芹香さん」

 名前を呼ばれ、現実に引き戻された芹香はパッと顔を上げる。そこには誠吾がいつもと同じ笑顔を浮かべて立っていたが、彼を避けてきた芹香は話しかけられたことに困惑し、体が凍りついた。

「あの、申し訳ないのですが、新しいお皿をいただいてもよろしいですか?」
「芹香?」

 追加の野菜を切っていた母が、なかなか動かない芹香を不思議に思って脇腹を小突いた。ハッと我に返り、食器棚から新しい皿を取り、誠吾に差し出した。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 その時、皿を受け取ろうとした彼と親指が触れ合う。途端に芹香の体に震えが走り、慌てて手を引っ込めた。

 父たちの輪に戻っていく誠吾の背中を見守りながら、激しく心臓が打ち付けるのを感じていた。

 彼を忘れようと決めたのに、どうしたって彼への気持ちは消えることなく、芹香の胸の中に存在し続ける。

 彼にとってはきっとなんてことのない出来事の一つなのかもしれない。あれだけのルックスだ。告白だってされるだろうし、付き合った経験だって多いに決まってる。芹香が告白したことだって、すでに過去のこととして忘れているのかもしれない。

 でもそれならそれでいいの。忘れているのなら、これ以上優しくしないでほしい。諦めたと口にするのに、心の底では諦められない自分がいるのも確かだった。

 十歳も下の子にいきなりキスされて、どう思っただろう──不快な気持ちになったか、逆に大人だから何も感じなかったかもしれない。子供が何をやってるんだって鼻で笑っていたりしたかもしれない。

 誠吾の態度が何も変わらないからこそ、彼にどう思われているかわからなくて不安になる。そんなマイナスなことを考えれば考えるほど、芹香はドツボにはまっていくのだった。
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