ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
駅長室


「…つっ!」

若葉は思わず声が出た。別の駅員が、若葉の膝に消毒液をベタベタと付ける。

その後ろで、先程の男性と駅員が防犯カメラの映像を確認していた。
男性が画面上の一人の男を指さす。

「あ、この人です!見ててください。…ほら、ぶつかった!」

「やっぱり。わざとぶつかりに行ってますね。最近多いんですよ。特に若い女性を
狙った被害が多発してまして。」

「顔は分かりませんね。」

「他にカメラはないんですか?」

「ありますけど、この位置じゃどうだろう。」

「改札にもカメラありますよね。服装から同一人物か割り出せるんじゃ。」

「確かにそうですね。」


どうやら、被害者の若葉を無視して男性と駅員二人で盛り上がって犯人捜しをしているようだった。


「あの、私被害届けとか出さないので。」

と、若葉は彼らの背中越しに少し大きい声で言った。

「でも、怪我もされているし、パソコンも壊れましたよね?」

と、男性が言う。

本音を言えば私も被害届けを出したい!パソコンだって会社のだ。でも今日は時間がないのだ。本当は、駅長室なんかに寄っている時間もない。

駅員に大きな絆創膏を貼ってもらうと、若葉はお礼を言ってから立ち上がった。

「あの、私なら大丈夫ですので。お世話になりました。ありがとうございました。」

と、言い、パソコンの入ったバッグを手に取ると、丁寧にお辞儀をしてから駅長室を出た。
足が痛い。ケガをした足を庇いながら歩き出す。

若葉は携帯を取り出し検索する。

24時間 パソコン修理 


そこへ、先程の男性が追いかけてきた。

「あの、僕に出来ることありますか?」

若葉は立ち止まり振り返ると、その男性を見上げた。

今まで自分の事に精一杯で、人の顔など見る余裕がなかった。改めて見ると、背が高く、眼鏡でわかりにくかったが、整った顔立ちをしている。服装は、普通にシャツと綿パンで、サラリーマンには見えない。一体なんの仕事をしているのだろうか…。

若葉は藁にもすがる思いで聞いた。

「あの、この辺にパソコンの修理、やってくれるところありますか?」

「今からですか?この時間だと厳しいなぁ。」

予想通りの回答だ。若葉は、

「そうですよね。ありがとうございました。」

と、言うと、再びぎこちなく歩き出した。
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