ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする
若葉は急いで用事を済ませ、タクシーに飛び乗った。

実家の玄関前。若葉は7年ぶりの実家に、緊張の面持ちで
ふう~っと一呼吸おいてから、玄関に入った。

若葉の緊張とは裏腹に、母はそわそわした様子で、若葉が帰ってくるのを玄関で
待っていた。

「よかったわ。ちゃんと帰ってきてくれて。約束の時間になっても姿が見えないから、
心配したのよ。さあ、時間がないから早く着替えてちょうだい!」

と、母は笑顔で言った。
若葉は気負っていたが、母は家を出る前のころと変わらない態度で
接してくれたので、若葉もいつのまにか昔のように、母と打ち解けていた。

帰るなりバタバタと髪もセットされ、母に慣れた手つきで振袖を着せられ始めた。
帯を締められている途中に、

「ねえ、ここまでする必要ある?」

と若葉が不満を漏らすと、

「ごめんね。若葉。」

と、母が謝ってくれた。

謝ってほしいわけじゃないんだけど・・・。
その時、

ダダダダ

廊下を走ってくる音がした。

ピシャン!

とふすまが開けられたかと思うと、姉の和葉が入ってきた。

「若葉!なんで?私、無視してって言ったのに!」

「そういうわけにもいかないでしょ。」

と、若葉は帯を締められながら苦笑いで答えた。

「母さん、若葉を巻き込まないでって言ったじゃない!」

と和葉が言うと、

「身重で走らない!」

と、母が姉の方を見ずに言った。
母は黙々と若葉の帯を締めている。

「え?お姉ちゃん、お腹に赤ちゃんいるの?」

「うん。まだ3か月なんだけどね。」

と、お腹に手を当て嬉しそうに言った。

ますますお姉ちゃんには絶対に幸せになってもらわないと。

若葉は改めて心に誓った。

「若葉、お見合い断ってきていいからね!うちは大丈夫だから。
剛さん(和葉の夫)もいろいろ銀行回って融資してくれるところ探してるから!」

「うん。分かった。とりあえずお姉ちゃんはお腹大事にしてね。」

「ええ。」

仲居頭が、

「女将さん、迎えの車が来ました。」

「よし、これで着崩れはしないわ。」

と言って、母は帯をポンと叩いた。母は若葉の帯をきつめに結んでくれていた。

「お母さんも一緒に行くよね?」

と、若葉が聞くと、母は困った顔で、

「それがね、先方さんの希望で若葉だけ呼ばれてるのよ。」

と、答えた。

「はあ?それ、おかしくない?」

「多分、旅館が忙しいから気を遣ってくださったんだと思うわ。」

「ふーん。」

若葉は何か腑に落ちなかった。若葉は和服用のバッグと
小さな紙袋を持つと、部屋を出た。

表に出ると、黒塗りの高級車が、一台止まっており、若葉が近づくと、
すぐに運転手が後部座席のドアを開けてくれた。
若葉は振り向き、母と姉に、

「じゃあ、行ってきます。」

と言って、車に乗り込んだ。
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