ゲームクリエーターはゲームも恋もクリアする

仲居の若葉

若葉の部屋

まず、有野社長に会って、本当に助けてくれるのか確認して、それから
冬英さんに指輪を返して・・・
いや、それは冬英さんに失礼かも。先に冬英さんに指輪を返してから・・・
うん、そうしよう。
会社にも退職願を出さなくちゃ。でも今の企画だけはどうしてもやり遂げたい・・・。
課長と坂本君だけには早めに伝えないと・・・。

若葉はこれからの行動を頭の中で整理していた。
すると、

「若葉ー!!ちょっと来てくれる?」

と、階下から和葉の声がした。
若葉は階段を降り、

「なに?どうしたの?」

と、行くと、

「ごめん、アルバイトの子が一人来れなくなって。手伝って
くれない?」

「え~?私、仲居の仕事分からないんだけど・・・。」

「大丈夫。料理の品出しするだけだから。」

と、和葉が言った。

「分かった。出すだけでいいのよね。」

と、仕方なしに返事をした。

旅館の仕事を手伝ったことのない若葉には、仲居の仕事は寝耳に水だった。
しかし、今日はありがたいことに、満室だったので、旅館は久々に活気が溢れていた。
仲居も厨房も今日は大忙しだった。

若葉は仲居の着物に着替えると、言われるままに、他の仲居と一緒に
どんどん料理を部屋へ運んで行った。一緒に品出しをするペアは、
若葉が小さい頃からずっとこの旅館で仲居頭として勤めているベテランの
戸田さんだ。料理を運びながら、

「ごめんね、若葉ちゃん。」

と、戸田さんが言った。

「いえいえ、こちらこそ、即戦力にならなくて申し訳ないです。」

「そんなことないわよ。今は和葉ちゃんが身重だから、あんまり頼めないし。
ほんと、今日は若葉ちゃんがいてくれて助かったわ。」

「いえ。」

「この前も和葉ちゃん無理して、貧血起こしちゃって。」

「え?そうなんですか?」

「あれ?聞いてなかった?安定期に入るまで、旅館の仕事はセーブした方が
いいんだけど、女将さんも倒れちゃったからそうもいかないしねえ。」

「私から、姉に無理しないよう言っときます。」

「ねえ、若葉ちゃんはこっちには戻らないの?」

「そうですね・・・。」

と、若葉は答えを濁した。と同時に部屋の前に着いた。

戸田さんが

「失礼致します。」

と、言って、扉を開けた。
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