恋の♡魔法のチョコレート
差し出されたその箱を、受け取ろうとゆっくりと手を伸ばした。
どこか心に引っかかるような小鳩の表情を見つめ、触れたところで手が止まる。

「これ、私に?」

「…そうです」

パッと手が離され、私の元へ来てしまったチョコレート。

視線まで逸らされてしまった。

「嘘!小鳩が私にために作ってくれるわけないもん!」

逸らされた視線に後ろめたさを感じて、すぐにチョコレート詰めの作業に戻った小鳩は何事もなかったかのように黙々と手を動かし始めた。

「…私に聞いてほしいお願いなんだよね?これどうしたらいいの?」

「もらってくれたらいいです」

「でもこれ…っ」

中身は見ていない。

でもわかる、これは小鳩が想いを込めて作ったチョコレートだ。

こんなに丁寧にラッピングされてるのに、意味がないわけない。

「…本当は誰にあげるつもりだったの?」

「…あげる人なんていませんよ」

じゃあなんでそんな心細そうな声で言うの?

小鳩らしくないじゃん。

きゅっと箱を持つ手に力が入る。


“小鳩は好きな人いないの?”

“そんなめんどくさい人いません”


なんで、めんどくさいって思ったの?

好きだから、いろいろ考えちゃってめんどくさいなって感じちゃうこともあるからだよね。

それってそんな人がいないと思わないよね。

本当は…


小鳩、好きな人がいるんだよね?


想いのいっぱい詰まったチョコレート、誰にあげようと思ったの?

誰に食べてほしいって思ったの?


“誰かのために作るのは嫌いなんで”


そう言ってたのに。

誰のことを想って…

「ねぇ、小鳩って森なっ」

「チョコレート止めようと思うんです」

「………え?」

私の声を遮るように、いつもより大きな声で小鳩が言った。

驚く私と目を合わせて、瞬きもせずに私の瞳を捉えるように。

「もう作りません、今後一切。これが最後のチョコレートです」
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