愛されることに 慣れていなくて
彼は胸ポケットから何かを取り出し私に差し出した。
ハンカチだ。淡いブルーのタオル地に、犬の刺繍が施されている。

「私の…」

「そうだよ。菜々子、君の物だ。俺は、君をずっと想っていた。ずっと遠くから見ていた。だから、俺は君のことをよく知っている。でも俺は、一度勝手に失恋したんだ。君が男と指輪を買っているところを偶然見てしまった。婚約指輪だろ?俺は17だった。君を奪いにいける大人じゃない。だから諦めた。
諦めたはずだった。
だが、君への想いは消えることはなかった。アメリカの大学に進学し、帰国後久我山ホールディングスに入社した。九州で業績を上げ、東京に戻った俺は君を探した。君が幸せに暮らしているか確かめたかった。確かめた君は、結婚はしておらず、男と同棲中だった」

「え……」

私は今、丸裸にされている…

「引いたか?もうストーカーの域だよな」

彼は苦笑した。

「俺は、君が幸せならそれでいいと思っていた。だが、君は…」

「殴られそうにった、ですね」

「そうだ。俺はもう我慢するのをやめた。見ているだけをやめた。今の俺は、昔の何もできなかった俺じゃない。もう、一人前の男として君の前に立てる。そう思ったから、行動を起こした。背中を押してくれたのは花さんだ」
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