愛されることに 慣れていなくて
御曹司はしばらく黙っていたが「ホテルはどこだ?送る」と、私の手から荷物を奪い取った。

「いえいえ、大丈夫です!近くなので一人で行けます」

慌てて荷物を取り返そうと手を伸ばしたけれど、

「あいつが来たらどうする」

その一言で伸ばした手を引っ込めた。ホテルを告げると、彼は私に歩道側を歩くよう促し、自分は車道側を歩き始めた。
その全ての所作が美しくまたドキッとしてしまった。


何の会話もなく、ホテルの正面入口までやって来ると立ち止まり、私と向かい合った。

「一つ訊くが、日向菜々子はどんな部屋なら落ち着くんだ?」 

「それはやはり住み慣れた自分の部屋ではないでしょうか」

「そうか、わかった。今日はゆっくり休むといい。だが、明日はちゃんと帰って来いよ」


彼は荷物を私の手に持たせると、踵を返し来た道を歩き始めた。

帰って来いって言われても、もともと私の部屋ではないし、初めて訪れた場所だし、御曹司にも今日初めて会ったのだし、使う日本語を間違えているのではないのか?と思ったのだけれど、何故かしら心の中がじわりと温かくなるような感覚が広がっていた。

〜明日はちゃんと帰って来いよ〜

こんなこと、もう何年も言われていない。
いや、言ってもらった記憶がない。


< 28 / 185 >

この作品をシェア

pagetop