愛されることに 慣れていなくて
「坊ちゃん!」

黒いスーツを着こなしたスレンダーな男性が足速に近づいてくる。近づいたかと思うと膝をつき

「こちらにいらっしゃいましたか。心配いたしました。さあ、参りましょう。おや?これは坊ちゃんが好きなレンジャーブルーではないですか?それにこのキャラクターたち」

男性が私の顔を見る。

「あなたがお描きになられたのですか?」

「はい」

「なんと素晴らしい。坊ちゃん、良かったですね」

「うん」

「さあ、参りましょう。では、失礼いたします」

彼は私たちに深々と頭を下げ、男の子の手をとり去って行った。
男の子は、姿が見えなくなるまで何度も私たちの方を振り返っていた。

「あの子、おぼっちゃまなんだね。なんでこんなところで泣いてたんだろう」

「さぁ、お母さんもわからないわ」

「でも、ちょっとだけ笑ってくれたからよかった。もう泣いてないといいな」

「そうねぇ、大丈夫かしらね」

少し冷たい風が吹く。

「お母さん、部屋に戻ろうか」

「そうね」

「お母さん、私ね、将来お母さんみたいな保育士さんになりたいんだぁ」

「あら、絵は?」

「絵は好きな時に描く。保育士になりたい。お母さんみたいに、いつでも子どもたちの味方になってあげられる保育士」

「そう。菜々子ならきっと優しくて人気者の保育士になれるわ。お母さんが保証する」

「うん!」


それから半年が経った中学3年の秋、母は空へ旅立った。
< 3 / 185 >

この作品をシェア

pagetop