婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした

 そんな感じで半年間、私とヴィンセント様は交際を続けてきた。

 正直いうと、私はこのまま彼と本当に結婚しても悪くないと思っている。

 ヴィンセント様は公爵家の長男。本来なら爵位を継承する人物なのだけど、本人にその気はない。子供のふりをしている理由の一つに、爵位を継ぎたくないからというのもあるらしい。
 公爵様もこんな状態の彼に爵位を引き継がせようとは考えないはずだ。
 それにヴィンセント様には弟がいる。たとえ彼が爵位を継がなかったとしても、弟が継げば良いだけのこと。と言っても、彼の弟はまだ八才。爵位を継ぐのはまだまだ先の話になるから、それまでは公爵様に頑張ってもらうしかないけれど。
 
 それはともかくとして、公爵夫人という面倒な肩書きは背負わなくても良い。

 それに私も十八歳になり、どのみち結婚相手は探さないといけない。

 彼が爵位を継ぐ気が無いのなら、いっそのこと我が家へ婿養子に来てもらうのはどうだろうと考えた。そうすれば、私は住み慣れた土地や家から離れる必要も無い。
 辺境伯というお父様の爵位も、既に名前だけの様なもの。
 ヴィンセント様がそれを継いだとしても表舞台に出る必要は無いし、数少ない事務的な仕事も私がサポートに入れば良いだけの事。
 働く事は苦じゃない。これまでも、亡くなったお母様に代わってお父様のお手伝いをしてきたのだから。

 ……と、色々と理由付けしてみたけれど、はっきり言って私はヴィンセント様に惹かれている。
 だから単純に彼と結婚したい。とてもシンプルな理由だ。

 彼は相変わらず私から婚約破棄させようと必死に子供を装っているけれど。

 私はもう知っている。

 彼がなぜそんな手段を選んだのか。その理由(わけ)を。

 だから私は彼から離れる気はない。

 心の声を聞く事が出来る私だけが、彼の唯一の理解者でいる事が出来るのだから――。
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