婚約破棄されたい公爵令息の心の声は、とても優しい人でした
「――おい! 聞いているのか!?」

 気が付くと、目の前には真っ赤な顔でなにやら声を荒げている中年男。
 ああ、えっと……。マーガレットの父親だったっけ。
 私が物思いにふけている間に何か言っていたらしいけれど、全く聞いていなかった。
 それよりも、私の口からは先程浮かんだ言葉が零れていた。
 
「真実の愛……」
「は…………?」
「どうやら、私は真実の愛を見つけていたようです」
「……」

 ざわついていた会場内は、シン……と沈黙する。そして――ドッと笑い声に包まれた。
 
「ぶっ! あっははははは!!! 真実の愛ですって!? 急にどうしたのよ!?」
「舞台劇の真似事でもしているのか? 真実の愛? 今時そんな事言うやついるのかよ!」

 いたじゃない。さっき。この国の次期国王が言ってたわよ。
 そのリアクションをさっきしなさいよ。

「あっはははは! なになにー? みんな楽しそうだねー! 何の話してるのー?」

 突如、聞こえてきたその声を合図に、再び会場内が静けさに包まれる。
 漂い始めた空気がなんだか凄く重たい。
 その原因となっているのは恐らく――。

「ねえ、僕にも教えてよ。きっと楽しいお話なんだよね?」

 太陽の様な笑顔を浮かべるヴィンセント様が、顔に不釣り合いな禍々しいオーラを放ちながら佇んでいたからだろう。

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