課長に恋するまで
「上村さん、お酒飲まないの?」

 お茶を飲んでるとゆかりちゃんに聞かれた。

「今夜はもうきついですね。この間みたいに記憶を失くしてゆかりちゃんに迷惑をかけると困るし」

 ゆかりちゃんが笑った。

「あの時は残念だったな。もう少しで上村さんを頂けたのに」
「面白い事言うね」
「冗談じゃないですよ。上村さんにひと目ぼれしたんだから」

 甘えるような顔をしてゆかりちゃんが見てくる。
 さすが銀座のホステスさんだ。駆け引きが上手い。

「ありがとう。そんな事言ってくれるのはゆかりちゃんだけだよ」

 ホステスさんとは疑似恋愛を楽しむものである。だからこっちも軽い調子で返した。

「そういえば、ゆかりちゃん今月が誕生日だよね」

 名刺にはそう書いてあった。

「嬉しい。上村さん、覚えててくれたの?」
「今度ゆかりちゃんの為に高いシャンパンを入れに行くよ」

 シャンパンを入れる事でゆかりちゃんの売り上げになる。

「ありがとうございます。絶対ですよ」
「うん」
「でも今日も沢山、シャンパン入れてくれましたね。フルーツまで。ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう。おかげで楽しい時間が過ごせたよ」
「上村さんて、本当にいい人ですね」

 ゆかりちゃんがしみじみと言った。
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