初めては好きな人と。
翌朝、目が覚めた私は、時計を見て青ざめた。
「うそっ」
ベッドボードの時計は出社時間を示していたのだ。
やだやだ、うそ。目覚まし気づかなかったなんて!
慌てて飛び起きてリビングへのドアノブに手を掛けた時、護の話し声が聞こえて手を止める。
誰かお客様がきているみたいだったので、私はいつの間にか用意されていた、新品のワンピースに着替えて身なりを整えてからリビングへと向かった。
「あ、美月起きた?おはよう」
「お、おはよう、ございます…あの…」
リビングのソファに座っていた人が、立ち上がって私にペコリと頭を下げる。
「美月さん、初めまして。わたくし、比田井CSOの秘書をしております柿田と申します」
かっちりとしたスーツに身を包んだ柿田さんは、見るからに仕事の出来る大人の女の人、という感じ。
ちんちくりんの私とは違って、化粧もヘアセットも所作も全てが完璧だった。非の打ち所がない、という言葉がピッタリの女性だ。
「美月のその服、彼女に頼んで用意してもらったんだ」
「そうだったんですね、ありがとうございます、助かりました。あ!すみません、私会社に行かなくちゃいけないので…これで失礼します。護、ここから一番近い駅ってどこ?」
「美月落ち着いて。山崎さんには、今朝俺から事情を話して今週一杯休ませてもらうことになったから大丈夫だよ」
「えっ…、そんな…、また迷惑かけちゃう…」
「美月さん、昨日のこと伺いました。さぞ怖かったことと思います。会社のことを心配するお気持ちもわかりますが、事情が事情ですので今はご自身を優先されるべきです」
「あ…はい…ありがとうございます…」
確かによく考えてみれば、昨日の今日で出社してまともに仕事が出来るかどうかはあやしかった。下手に無理して失敗しては元も子もない、と思い私はそれを受け入れることにした。