あの頃からあなただけが好きでした

「多分ですけど。
 逃げたんだと思います」


 悲痛な表情でバージルが言った。
 兄が姿を消して、早くも3日後のことだ。
 同じ日からウチの事務所で働いていたルイーザ・マクガバンも無断欠勤を続けていて、バージルはふたりが駆け落ちしたのだ、と言う。


 そんなバカな事はない。
 兄が愛していたのはジュリア・オーブリーだ。
 
 ルイーザは結婚していたし俺とも顔見知りで、
彼女とキーナンがそんな関係であるはずがない。


 夏前からキーナンは現場である外回りの仕事から経理に移ってきて、事務所で仕事をしていた。
 そこで慣れないキーナンを補助していたルイーザと関係が出来たようだ、とバージルは親父に伝えた。


 時折、ふたりだけで昼食に出たり、ルイーザの退勤に合わせてキーナンも外へ出るので、バージルは怪しいと思っていたらしい。


 夏前と言えば、ジュリアに手紙を出すのが減り始めていた頃と合致はするが、まさかと思った。


「ルイーザには夫と幼い子供が居ますからね。
 相手が既婚者なので、私も旦那様に言えなくて……」

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