甘く、溶ける、君に。


自分の言ったことより、見上げて目が合う目の前の人の表情に目を奪われた。



そしてそのまま一瞬で千輝くんに腕を引かれる。

ちょっとバランスを崩しそうになるけど最初から彼は自分の腕の中で受け止めるつもりで、簡単にすっぽりとおさまってしまう。



ガチャ、と後ろでドアの閉まる音がした。


少し強引に引き寄せられたかと思えば、背中に回された手がこれ以上ないくらい優しかった。

なのに、ぎゅっとされる力は弱くなくて、“離さない”と、そう言わんばかりで。



朝、抱きしめられた時よりずっと優しくて離れたくなくなるくらいあったかい。



こんなにも大事に、それだけで泣きそうになってしまう抱きしめられ方されたことなかったの。



もう一生、このまま。

このまま離れたくなくて、一生溺れていたい。戻れなくていい。



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