実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜

20.姫様のせいですよ?

 楽しい時間はビックリする程あっという間に過ぎて行った。


(帰りたくないなぁ)


 朝が来たら、また勉強漬けの日々が待っている。別に、一生遊び暮らしたい訳じゃないけど、こんな風に肩の力が抜くことの出来る場面がもっとあると良いなぁなんて切に思った。


「ねぇ、アダルフォ……ちょろっと寄り道して帰っちゃダメだと思う?」

「――――――ダメでしょうね」


 アダルフォに尋ねれば、彼は至極申し訳なさそうに眉根を寄せた。


(ですよねぇ……)


 馬車へと乗り込みつつ、わたしは小さくため息を漏らす。


「あっ、気にしないでね! 元々分かってて聞いたことだし。昼間より夜の方が危ないものね」

「はい、姫様。お気遣いありがとうございます」


 アダルフォはわたしが腰を下ろしたのを確認すると、馬車の扉をゆっくりと閉める。
 城までの帰り道、わたしは馬車に揺られるだけだけど、警護する方は気を張らなきゃいけない。おじいちゃんのお許しも得られていないのだし、直帰しなきゃいけないのは当然っちゃ当然だ。
 小さくため息を吐きつつ、わたしは窓の外からこちらを覗っているランハートに向けて微笑みかけた。


「今日はありがとう、ランハート。とっても楽しかったわ!」


 馬車に乗る前も一頻りお礼を言ったのだけど、改めてそう口にすると、彼は目を細めて笑った。


「それは良かった。だけど姫様、残念ながら『楽しかった』だけでは十分じゃありませんね」


 ランハートはコンコンと窓を叩き、開ける様に促す。


「これ以上ない褒め言葉なんだけどなぁ」


 馬車の窓を開けつつ、わたしは小さく首を傾げた。
 ランハートがわたしの求めてやまないものを与えてくれたんだもの。これでも本当に感謝しているのだ。


(ほんのひと時の間でも、本当に楽しかったし幸せだったんだから)


 むすっと唇を尖らせると、ランハートはクスクス笑いつつ、こちらに向かって手を伸ばした。


< 100 / 257 >

この作品をシェア

pagetop