実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
「――――本当に戻って来てしまったのね」


 冷たい声音。氷の彫刻みたいに美しい女性が、こちらを真っ直ぐに見つめている。
 お父さんのお妃様――――王太子妃ゼルリダ様だ。


「はい、ただ今戻りました」

「折角追い出せたと思ったのに……残念なこと」


 ゼルリダ様はそう言って、エリーの方をチラリと見遣る。
 わたしはゼルリダ様の前に進むと、ゆっくりと丁寧に頭を下げた。


「手紙のこと、ありがとうございました。ゼルリダ様のお陰で、わたしは両親に再会することが出来ました」


 ピクリと、一瞬だけゼルリダ様の眉が動く。その表情は相変わらず、冷ややかなままだ。


「一体なにを言っているの? 私はただ、あなたを追い出したかっただけよ」

「それでも。
わたしはそれまで、手紙が両親に届いていないことすら知らずにいました。いきなり王族になることを強いられ、外に出ることすら許されず、色んな自由を一気に奪われて苦しく思っていました。
だけど、ゼルリダ様のお陰で、両親に手紙を送ることが出来ました。二人に会い、真実を知り、王太女として生きて行く覚悟が出来ました。
全てゼルリダ様のお陰です。本当に、ありがとうございます」


 ずっとずっと、ゼルリダ様にお礼が言いたかった。

 彼女にとっては、わたしを城から追い出すためにしたことなのかもしれない。それなのにわたしが帰ってきて、本当に腹立たしく思われているのかもしれない。

 だけどわたしは、そんなゼルリダ様の行動に救われた。何度お礼を言っても足りないぐらい、本当に感謝している。


「――――行くわよ」


 頭を下げたままのわたしを置き、ゼルリダ様は身を翻した。その後ろを、彼女の侍女達が続く。
 ゼルリダ様が今、どんな表情を浮かべているのかは分からない。
 だけどわたしは、何故だか心が温かかった。
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