実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
 野心家のバルデマーのこと。

 本当はランハートや他の貴族たちがどれぐらいわたしに会いに来ていたのかとか、自分が今どの位置に居るのかとか、そういうことが気になっているんだろう。

 だけど、彼は決してそれをわたしに打ち明けない。表面上は穏やかな表情を浮かべて、それらを綺麗に隠そうとするのだ。


(わたしは思っていることがすぐ顔に出るからなぁ)


 表面を取り繕えるだけで、素直にすごいなぁと思う。
 わたしだって、後継者教育の中で訓練をしてはいる。だけど、元来の性格もあってか、中々会得が難しそうだ。
 シルビアは以前『わたしが感情を表に出すことで救われた』って言ってくれたけれど、TPOは弁えなきゃならない。もっともっと訓練を積む必要がある。

 だけど、個人的にはランハートみたいに、考えや企みを『敢えて』顔や口に出すっていうやり方も嫌いじゃない。黒い思惑が渦巻く貴族たちの間で上手く情報を引き出せるし、無駄が省けて効率的だもの。ポーカーフェイスよりも幾分簡単だし。


「姫様」


 バルデマーの呼び掛けに、わたしはハッと顔を上げる。
 いけない。ついつい考え込んでしまった。


「何?」

「そちらに行ってもよろしいでしょうか?」

「……そちら?」


 彼の意図が読み取れずにいると、バルデマーは立ち上がり、わたしの隣へと腰掛ける。思わぬことに目を瞠れば、彼はそっと瞳を細めた。


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