実はわたし、お姫様でした!〜平民王女ライラの婿探し〜
 休んでいた分、しなきゃいけないことは山積み。帰還初日で、挨拶ばかりになるのは仕方がないとしても、一人一人に裂ける時間はとても短い。

 だけど、バルデマーについては特別待遇だ。

 婚約者候補である彼とは、これから一ヶ月の間に親交を更に深めなければならない。誰が王配に相応しい男性か、きちんと見極める必要があるからだ。

 わたしと、国の未来が掛かったいわば最重要課題。表向きは朗らかな笑みを浮かべつつも、緊張で全身が強張っていた。



『おじいちゃんは、一体誰が王配に相応しいと思っているの?』


 先程、ただいまの挨拶をそこそこに尋ねてみたら、おじいちゃんは少しだけ目を丸くし、ややして口の端を綻ばせた。


『伝えたとして、私の意見をそのまま採用するのか?』


 今度はわたしが笑う番だった。首を横に振りつつ、おじいちゃんを真っ直ぐに見つめ返す。


『ううん。わたし自身の婚約者だもの。まずは自分できちんと考えたい。ランハートとバルデマーの二人なら、おじいちゃんの事前審査も通っているみたいだし』


 婚約者選びについて、最終的な決定権がわたしにあるのかは分からない。
 だけど、これまでみたいに受け身のままじゃダメだ。わたしももっと、積極的にならなければ。


 決意を新たにバルデマーを見つめれば、彼は困ったように首を傾げた。


「本当ならばもっとお顔を見に伺いたかったのですが……すみません。仕事を休むわけにもいかず。ご気分を害されたのでは?」

「まさか! 良いのよ。それだけバルデマーが真剣に仕事に向き合っているってことだもの。尊敬こそすれ、悪印象を抱くことは無いから安心して」


 実際問題、女性(この場合はわたしだけど)と仕事を天秤にかけて、女性を選ぶような人が国のトップじゃ困るもんね。有事の際に選択を誤るに違いないもの。


「良かった。安堵いたしました。
けれど、これからは出来る限り毎日、お顔を見に参ります」


 バルデマーはホッと胸を撫でおろしつつ、いと優雅にお茶を飲む。けれど、その瞳は未だ、何かを探る様にわたしの方を見つめていた。

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