溺愛前提、俺様ドクターは純真秘書を捕らえ娶る


「今帰ったばかりだから、シャワーを浴びてくる」

「あ、はい。わかりました」


 そんな風に言ってみて、柄にもなくおかしな緊張感に包まれる。

 千尋が動揺しているのが伝染したのかもしれない。


「あの、早めに戻ってください」

「慌てて風呂場に飛び込んでくるなよ」

「わ、わかりました!」


 不安そうな表情の千尋を置いて、浴室へと向かう。

 極力早めに出ようとシャワーを浴びながら、寝室に戻ってから先のことを考え始めた。

 今日のところは、まだ手は出さないでおく。

 仕事上長く時間を共有しているせいか、今日が初めてひとつ屋根の下で過ごす日だという感覚が正直薄い。

 でも、婚姻届の提出後、夫婦として過ごす大切な初日なのだ。

 今日は少し触れる程度に留めて、ゆっくり時間をかけて関係を深めていこうと思う。

 それにしても、今日は彼女の知らなかった面を多く目の当たりにした。

 仕事も忙しい日常でちゃんと自炊をし、料理も手際よくできるのを知った。

 初めて一緒に食べた時から思っていたけれど、食事の仕方はとても美味しそうに口に運ぶから、見ていて気分がいい。

 普段は表情も変えずに冷静に仕事をこなしているのに、虫であんなに困り果てるなんて意外だった。苦手なことなんてないのかと思っていた彼女の弱点を知り、より距離が近付いた気になる。

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