惑溺幼馴染の拗らせた求愛


 麻里……。

 明音は拳を握りしめ、麻里の無事を祈った。麻里のスマホのGPSは明音の生家である槙島邸を指していた。

 明音と槙島家の確執は今に始まったことではない。
 金銭的に恵まれた家庭に生まれたにも関わらず、明音の幼少期は幸せとは程遠いものだった。古臭い伝統と世間体ばかり気にする母。婿養子で影の薄い父。そんな二人の間に生まれた明音はとにかく槙島家の後継者として完璧であることを求められた。勉強でも運動でも習い事でも全て一番をとるように強いられていた。初めの内は上手く行っていたと思う。努力すれば望む結果が得られ、母からの期待に応えられることが嬉しかった。
 しかし、平穏は長くは続かなかった。私立小学校の受験に失敗したことで、世界がひっくり返る。
 母は明音を責めた。慰めの言葉を掛けるどころか、受験に失敗したのは明音の努力不足だと罵った。父は明音を庇うこともなく、現実逃避のように仕事に没頭した。世間体を気にした母はありもしない美談を勝手に作り上げ、明音を公立の小学校に入学させた。以後、いかなる行事であっても明音の通う小学校に母がやって来ることはなかった。
 そう、明音は七歳にして親から見限られたのだ。愛情と期待はひとつ年下の弟に注がれた。
 なぜ。どうして。
 今でこそ慣れたが、当時は苦悩した。
 思い悩む明音に手を差し伸べたのは麻里だった。
< 52 / 75 >

この作品をシェア

pagetop