惑溺幼馴染の拗らせた求愛

「ねえねえ!!めがね池にオタマジャクシがいっぱいいるの!!見に行こう!!」
「え?わっ……!!」

 麻里は本を読んでいた明音の手を無理やり引っ張ると、校舎脇にある池まで連れて行った。

「早く大きくならないかな……。大きくなったらお家で買うんだー」

 麻里はニコニコと微笑みながら池の中をスイスイ泳ぐ小さく黒い生き物を眺めていた。

「オタマジャクシは家では飼えないよ。大きくなったらカエルになるんだから」
「カエルになるの!?」

 そう指摘すると麻里は驚いていた。どうやらオタマジャクシがそのまま大きくなると思っていたようだ。オタマジャクシなんて好きでも何でもないのにその後も頻繁に観察に付き合わされた。麻里は面倒見が良く、勉強は少し苦手で、走るのが早いどこにでもいる普通の女の子だった。どこを気に入ったのかわからないが、麻里は放課後も明音を子分のように連れ回した。家にも学校にも居場所のなかった明音にとって、それは随分と心地の良い時間だった。
 明音は徐々に本来の明るさと、一度は失いかけた自己肯定感を取り戻した。
 幸せな少年時代の記憶は明音にとって胸の奥に大事にしまっておきたい宝物になった。
 明音の人生が再び大きく動き出したのは、小学校を卒業した十年後、麻里と再会を果たした時だった。

「明音?……だよね?来てくれたんだ……」

 泣きそうなくせに決して泣かない麻里を見て、明音は初めての淡い気持ちを抱いた。抱きしめてしまいたかった。慰めてやりたかった。
 持て余した気持ちをどうしたらいいのかわからず、明音は麻里に何度もプロポーズした。
 恋人になるという過程をすっ飛ばしたのは、手っ取り早く麻里を自分のものにしたかったからだ。なんともひとりよがりなプロポーズだった。

 麻里……。

 明音は心の中でもう一度麻里の名前を呼んだ。
 もし麻里に何かあったら、自分で自分を許せない。
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