惑溺幼馴染の拗らせた求愛


 槙島邸は高級住宅街として広く知られている地域に門を構えている。
 槙島家は不動産事業を核とし、観光、都市計画をも担う一大グループを築いている。その本家たる槙島邸の敷地面積と建屋の煌びやかさは近隣の住居とは一線を画していた。
 麻里は槙島邸に数ある客間のひとつに連れてこられていた。立派な日本庭園の見える和室で真新しい藺草の香りが鼻をくすぐる。コタツなんて置けるわけないよなと妙に冷静な感想が浮かんだ。慣れない正座に足がジンジンと痺れていく。
 ここで待つように言われてから何分経っただろう。廊下から足音が聞こえたかと思うと、この屋敷の主人が現れた。
 一目で神経質だとわかる瞳は、麻里を侮蔑を持って見下ろした。巷では女帝と揶揄される槙島家の全ての財産の保有者、槙島家の当代、明音の母だ。
 麻里は居住まいを正した。気迫で負けたくない。
 
「金輪際、明音につきまとわないでちょうだい」

 明音の母は開口一番そう告げた。
 つきまとってなんかいませんというありきたりな反論はおそらく求められていない。はいという返事以外はいらないのだろう。

 相変わらず、傲慢な人……。

 こめかみが苛立ちでヒクリと動く。
 実は麻里と明音の母親はこれが初対面ではない。
 小学六年生の初めのことだっただろうか。明音と鷹也の木登り競争の翌日、今日と同じように呼び出され明音との付き合い方を改めるように忠告された。
 あの日、麻里を槙島邸まで迎えにきたのは父が亡くなる一年前に病死した母だった。
 知らない大人に叱られた恐怖と驚きで泣き出した麻里の背中を母は撫でさすりこう言った。

『麻里、あなたの好きにしなさい。その方があなたらしいわ』

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