冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

「伊織さん」

頭上から聞こえてきた声に、目を開ける。
伊織さんはいつもより力なく私に笑いかけ、優しく頭をポンポンと撫でてくれた。

「駆の安奈ちゃんへの想いは尋常じゃないんだから意地でも戻ってくるよ。だってあいつ、五年も前から想い続けていたんでしょ」

「え? 五年って? 誰がですか?」

「え?」

思わず聞き返すと、伊織さんが呆気に取られたように口を開ける。
そして彼は半笑いのまま、私の隣に腰かけた。

「えーと……聞いていなかった?」

(お、想い続けていた? 駆さんが?)

契約結婚をしたのはつい数か月前の話で辻褄が合わない。
理解が追いつかず目を白黒させていると、私たちの間に呆れた顔で菅原チーフがやってきた。

「伊織は本当に失言に気をつけなさい。駆は照れ屋なんだからそういうことは徹底的に言わないし、隠すのよ」

「えっと……」

菅原チーフは悪戯っぽくくすっと笑い、私に温かい眼差しを向けた。

「村瀬さん、ご結婚おめでとう。駆の長い長い片思いが実ったようで、幼なじみとして本当に嬉しいわ」

「駆さんが片思いって、どういうことですか……? だってずっと嫌われていたのに!」

ドクドクと鼓動が響き、全身が熱くなる。
私の方が先に駆さんのことを好きになったのだと思っていたけれど、ふたりの発言から彼はもっと前から私を想ってくれていたようにとれる。

(一体どういうことなの? 駆さん……!)
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