冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

菅原チーフの言葉を聞いてからの自分の行動を思い出せない。
客室センターに移動してすぐ緊急事態の詳細が伝えられた。

内容としては機体の前輪の故障が原因で、極めて難しい着陸態勢がとられるという。
駆さんが機転を利かし前輪に負担をかけないよう、ありとあらゆる荷物を後方部に移し羽田に向かっているというのも伝えられた。

刻一刻と着陸の予定時刻が近づいてくる。

私は長テーブルの椅子に座り、震える手でメッセージアプリを起動させる。
未読無視していた駆さんからのメッセージを開き、途端に涙がこみ上げてきた。

【さっきはごめん】
【伊織に嫉妬した。本当は安奈と伊織が仲良くする姿を見るのが嫌だっただけだ】
【ちゃんと会って気持ちを伝えたい。今日の夜、待っていてくれるか?】

画面に並べられた駆さんらしくないまっすぐな愛の言葉が涙で滲む。
伊織さんの言葉に疑心暗鬼になって、彼を信じられなかったのは私の方だ。
あんなに毎日、優しさをもらっていたのに。
楽しく過ごしていたのに……気持ちのこもったキスも受け取ったのに。
なぜ駆さんを信じられなかったんだろう。

顔を上げ、ガラス窓の向こうに見える滑走路を見つめる。
私は両手の指を絡め、初めて神様に祈りを捧げた。

(駆さんの命をどうか助けて下さい。乗客全員の命をどうか……)

ただそれだけでいい。
そして、今こそ駆さんを信じようと強く思う。
彼なら絶対にやってくれる。誰よりも仕事に真っ直ぐな人だから――。

「駆は大丈夫だよ」
< 124 / 145 >

この作品をシェア

pagetop