冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
玄関で出迎えてくれたのは、私の推しであり五十嵐さんの弟である伊織さんだ。
既に五十嵐さんから私たちが婚約したことは彼に伝わっているのだ。
五十嵐さんの意向で、契約更新する可能性があるのと、世間一般には理解されがたい内容ということで契約結婚については私たちだけの秘密。
正直伊織さんに対しては、共通の知り合いで照れ臭い気持ちと騙しているという罪悪感で複雑な心境だ。

(仮にも伊織さんと家族になる日が来るなんて。信じられない……)

やっぱり推しの笑顔は最&高。
不思議と緊張が解け、笑顔がこぼれる。
と、突然隣からごつんっと腕を小突かれた。
五十嵐さんの太い肘だ。ゆっくりと視線を上げると、彼はものすごい形相で私を睨みつけていた。

(な、何!? これからちゃんとするんだから、今くらいいいでしょ)

睨み合って無言の喧嘩をする私を、伊織さんはニコニコ眺めている。
すると、伊織さんの後ろから小綺麗にした年配の男女が姿を現した。

「初めまして、お忙しいところ来てくれてありがとう」
「まぁ、噂に聞いていた通り可愛らしいお嬢さんだこと」

私たちを見て豪快に笑った男性は大柄で、顔もパーツがはっきりしていて五十嵐さんによく似ている。
そして隣に立っている女性はというと、これまた整った顔立ちで優し気な雰囲気が伊織さんにそっくりだ。洗礼された雰囲気が、さすが社長夫人といった感じ。

軽く挨拶をした後、長い廊下を歩いて広々としたリビングに通される。
大きなL字ソファに全員が着席した後、お義父さんはすぐに隣通しで座った五十嵐さんと私を眺めた。

「駆が女性を家に連れてくること自体が初めてで嬉しくて仕方ない。今日はふたりのなれそめから聞かせてもらおうじゃないか」
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