冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする
私は今日も、駆さんにスペイン語を教わっていた。

彼はいつものようにテーブルに肘をつき私が読み上げる資料を見下ろしている。
ふたりきりに慣れた私たちの間に、以前のような重苦しい空気はない。

ただーー。

「駆さん、あの」

「なんだ?」

私が資料から顔を上げると、数十センチのところで視線がかち合う。
お互いにはっとして、すぐに資料に視線を戻した。

「ここの一文の意味がよく分からなくて」

「あ、ああ。ちょっと見せて」

「はい」

資料をそっと奪っていく彼を目で追う。
お風呂上がりの彼が着ているのは、ゆるっとしたシャツ。
半袖から伸びているのは鍛え上げられた腕が伸び、血管が浮き出ていて男らしい。
そんな逞しさとは裏腹に爪先は長く器用そうな形をしていて、美しい。
そして何より、私が意識してしまうのは彼の低音から紡がれるスペイン語だ。
艶やかな音に巻き舌が混じって色っぽい。
強い瞳で見つめられながら質問されると、途端に緊張してしまう。

(って、私。また変なところばっかり気になってない? 駆さんが嫌な奴じゃなくなれば、ただの国宝級イケメンだから?)

自分らしくなくてここ最近自己嫌悪に陥る。もしかして推し変?なのだろうか。

「安奈。お前、顔が赤くないか?」
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