冷徹パイロットは極秘の契約妻を容赦ない愛でとろとろにする

駆さんの言葉にはっとしたその時、突然大きな手が私の額にしっかりと触れた。
しかもすごくあったかい。

「若干熱がありそうだな。今日のところは休んでいた方がいい」

戸惑う私とは裏腹に、駆さんはいたって淡々と告げる。

「で、でも、せっかく予定を合わせてもらったのに。ちょっとくらい平気だと思いますよ」

「いや、何事も体が資本だ。お前が休んだら職場にも迷惑がかかる」

大先輩に言われてしまえばこれ以上は何も言えない。

(仕方ないけど、残念だ)

ここ最近、駆さんのおかげで語学が上達したこともあり、接客の幅がグンと広がっていた。
今までスペイン語圏のお客さまと話す際は、英語か、もしくは他のクルーに頼っていたけれど今はなんとか自分で対応できている。

話せるようになって更に学びたいという意欲が増した。ぜんぶ、駆さんのおかげだ。
駆さんはふだん厳しいから、褒めてくれた時の喜びは大きい。それに自信になる。
だから今日のレッスンも怖い反面、密かに楽しみにしていたのだ。

しぶしぶ片付け始めていると、目の前からかすかに乾いた笑い声が聞こえてきた。
不思議に思いながら顔を上げると、駆さんは口元に手を当てくくっと喉の奥で笑っていた。

「安奈は本当に分かりやすいな。いつでも教えてやるから機嫌を直してくれ」

彼の甘い笑みに、きゅんっと胸が締め付けられる。
遅れて、喜びと感動が胸にこみ上げた。

(駆さん、初めて自然に笑ってくれた気がする)
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