素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる

10 元カノ

 昼休みが終わってすぐの午後一の時間、アリスはその書類を持って、足早に竜騎士団が使う大部屋へと向かっていた。

 今日は珍しく午前中に出勤しているはずのゴトフリーが一度も窓口に来なくて、そのことが気になってしまって、全然仕事に身が入らなかったのだ。そして、竜騎士団関係の書類をひっくり返し、まだ期日まで間に合うが、団長印が抜けているものを探し出して仕事場から飛び出して来た。


 しばらくその目的の部屋の前で往生際悪くうろうろとしていたけれど、大きな扉の前でよしと決心してノックをしようとしたその時、いきなりそれが開いた。アリスは目の前に現れた大きな体に驚いた。

「……おわっ、ごめん。あれ? アリスちゃん? どうしたの?」

 飲み屋でも会っているエディ・ベイトマンだ。不思議そうな顔をして自分を見下ろしている背の高い彼にアリスは、慌てて持っていた書類を差し出した。

「あのっ、あの、この書類、団長印抜けてて」

 エディはその書類を受け取ると、アリスの指さす箇所を確認してから頷く。

「あ、ほんとだな。あの人、毎日大量の書類を処理しているから、たまに印を忘れるんだよな。ちゃんと渡しとくよ、わざわざ届けてくれてありがとう」

 にこにこと笑ってくれたエディの後ろに見える大部屋の中にゴトフリーの姿を必死で探した。「ではよろしくお願いします」と去る場面であることはアリス自身が一番良く分かっていた。

 彼を一目見たら帰るんだから、そうちょっとした仕事のついでに。

(もうっ……どこにいるのよ。早く見つけなきゃ、変に思われちゃう)
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