竜に選ばれし召喚士は口説き上手な外交官に恋の罠に落とされる
「……ジェラルディン。影が薄いので、君は知らないかもしれないが。僕はオペルの外交官だ。抜き身の剣は向けない方が、良いんじゃないかな。自分が戦争の発端には、なりたくないだろう」

 起き抜けの頭では、良く意味を飲み込めない。響きの良い低い声が、耳をくすぐる。目を閉じていると一層、彼が魅力的なのが外見だけじゃないとわかる。

「隊長からの命令です。彼女に危害を与えるような人物は、撃退せよとのことでしたので」

「へえ。警護対象者を、命をかけ守った人物に対し、あんまりな扱いだな……危害は与えないから、無事な顔だけ確認させて欲しい」

 ナトラージュは二人の声を聞いて、はっと目を覚ました。顔を上げた視界には、ジェラルディンの背中が入る。

 扉を開けたままで目を細めているヴァンキッシュは、剣を抜いた彼女と言い合っているようだった。

「……ヴァンキッシュ様……?」

「やあ。僕の可愛い召喚士さん。寝起き顔も、とても可愛いね。怪我もなく、無事な様子で何より。この怖い番犬さんに剣を下げるように、言って貰っても良いかな?」

 ヴァンキッシュは、にこにこと邪気のない明るい笑顔を見せ、目の前のジェラルディンを指差した。
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