殺すように、愛して。
 胃から何かが迫り上がってくるこの感覚を、俺は事あるごとに体験していた。我慢せずに吐いてしまえば楽になると、気持ちよくなれると、黛に実践で教えられた俺には、悪い癖がついてしまっていて。嘔吐することに、恥も躊躇も恐怖もなかった。なくなっていた。

 込み上げてくるものを、込み上げてくるままに、出す。黛に踏まれた腹を上下に大きく動かしながら、咳き込むように嘔吐く。独特の臭いが鼻を抜けた。その中に紛れ込む黛の匂いを探しながら、口の周りを吐瀉物で汚した俺は、自由の利く手で顔を適当に拭い、まゆずみ、まゆずみ、と黙って見ているであろう黛を呼んだ。吐いてごめんなさい。汚くてごめんなさい。臭くてごめんなさい。気持ちよくなってごめんなさい。悪い子でごめんなさい。まゆずみ。まゆずみ。まゆずみ。叱られたわけじゃないのに。怒られたわけじゃないのに。それでも、謝らずにはいられなかった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 まゆずみ、まゆずみ、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返してばかりの俺に、瀬那、可愛いね、と黛が答えてくれる。俺の名前を呼んでくれる。醜い姿を可愛いねの一言で片付けてくれる。それがなぜか嬉しくて、心地よくて、口調が荒くないのがちょうどよくて、更に、乱れた。歪んだ笑みが溢れる。おかしくて、堪らなくて、抑えられなくて、笑ってしまう。ゆっくり、ゆっくり、じわり、じわり、満たされていくのが気持ちよくて、笑ってしまう。黛に攻められて、動悸がして、興奮して、笑ってしまう。まゆずみ。まゆずみ。こんな醜態を晒す俺でも愛して。
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